為替レート

円為替レートの誕生から考察

アメリカ財務省が本日2016年4月29日、日本、中国、ドイツ、韓国、台湾の5か国が競争上の不公平な優位性をもたらしうる為替政策を追求しているという基準3つのうちの2つを満たしているとの見解を示しました。

その3つの基準とは多額の対米貿易黒字、大規模な経常黒字、継続的な一方向の為替介入の実施であると発表されました。すでに円ドルレートは年初以来変動が大きくなりました。この声明と先日の日銀の現状維持という金融政策の判断に関連があったかは憶測の域を出ません。しかし、いずれにせよ政策的な為替介入の余地は制限されることには変わりがないでしょう。

さて、短期での為替変動はニュース主導の投機活動で正確な予想ができないので、意思決定の対象とはしていません。

誰も正解を知りえない。そういう題材には興味が大きくなり、不可知が故、ニュースの量が多くなります。ニュースの量とその重要性は比例せず、結論が得られない度合と相関性が高いと思います。

さて、ちょっと寄り道をしました。短期では市場でのノイズによる影響が支配的な為替でありますが、果たして日本の為替レートの歴史を振り返って、そこから見える今後の展望の指針とは何でしょうか。そこから見える円高トレンドは何が動かしているのでしょうか。

 

• 西南戦争に伴う出費によるインフレでの1ドル2円への下落

• 第一次世界大戦と関東大震災による財政の悪化に伴って1920-23年に財政負担が増加、それに加えて1930年の世界不況と続く満州事変などに端を発してさらに財政が悪化。インフレが二ケタに上り、そして金兌換を停止。急落し1ドル4円程度に

• 戦後の1945年に占領下政策で暫定的に1ドル15円と設定。その後膨らんだ戦時公債返済に伴う日銀引き受けを端に発した1947年から1949年にかけてのハイパーインフレとともに一気に円安が進みました。その後360円でブレトンウッズ体制下で固定

• 1973年には変動相場に移行し、それ以降営々と円高が続いてきた となります。

これらの過去のキーとなるイベントで共通した事象を上げると何でしょうか?一つに絞れば、紛れもなくインフレーションといえます。

具体的にデータが確認できる範囲である、1930年以降の為替レートと日米の相対インフレ率を下記のチャートで比較してみました。

 

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先ほどと同じ為替の長期トレンドに日米の相対インフレーションを加えて同じチャート上に表示したものです。左の軸が為替レートの指数(1=4円)で青いライン、右の軸が日米の相対インフレ率の累積値を指数にしていて赤いラインです。

相対インフレの2国間のトレンドと為替の推移は過去90年弱近く、非常に似通った並行した動きとなっていて、また変動相場化以降の円高とも似通った方向をたどり続けていることが見て取れます。

金融理論では為替レートの様々な決定要因が示唆されています。しかしそれらは、相互に影響し合い、長期では通貨間のインフレ格差が中心的決定要因だったということです。そして具体的には、戦後はアメリカでのインフレが高く、一方日本が(戦後のハイパーインフレ以降は)インフレが平均すれば低かったということであります。

例えば大震災で物資の生産が壊滅的に減少して、財の供給が例えば1/100まで減少すれば、需給関係で限られた物資への超過需要で価格上昇つまりインフレが発生するでしょう。しかしそれでも開放系経済を前提にすれば、世界中が同じような状況になるとすれば、為替レートは依然としてインフレ格差を反映した動きになると考えられます。

インフレーションと為替レートはコインの裏表で、ペアになって動くはずです。日本から見たハイパーインフレは開放系経済を前提とした経済システムでは大幅な円安と同時に発生すると考えてよいでしょう。

しかし70-80年代と比べ、近年の状況はどうなのでしょうか。世界のインフレの違いも変わってきました。そこで相対インフレ率だけをチャートにしたものが下記のチャートです。

 

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一見してわかるように、日米のインフレギャップは80年代半ばに向けて広がった(すなわちアメリカでのインフレが日本よりより高くなった)あとピークアウトして徐々に縮小してきました。

このトレンドが続くとすれば、構造的には円高ではあれども、その圧力は80年代後半から90年代前半のころに比べれば緩くなりつつあると言えそうです。

しかし、緩やかとは言えども年率で1%弱程度のインフレ格差が安定して続くと仮定すれば、為替レートは10年で10%程度の円高傾向への圧力がかかることを意味します。

 そしてインフレについては、ご存知のように、日本では日銀が今も挑戦している2%というインフレ目標があります。その達成は構造的に容易ではないと考えますが、もしも成功すればインフレギャップを縮小させ、為替レートは長期では安定すると考えてよいでしょう。そしてそれができなければ(私は日本のデフレが続くと思っていますが)緩い円高圧力は継続するでしょう。

もちろん、リスクオンオフによるリスク資産投資に使われる日本円のショートとの関係、また今日の発表にあったような介入に対する思惑やそれに対するトレードの投機が、短期為替を動かしはしますが。

しかしマイナス金利まで使っての金融緩和持続性は、大きな疑問です。インフレの今後の行方という期待を介して、長期的な為替レートの方向への見方に影響を与えうることになります。それは今のところ偶然にも、短期的な市場構造(円が最安のトレーダーにとっての資金調達=借り入れ通貨であるがゆえに)の下での円の動きと一致しています。

さてこの結果、インフレ率の国際間格差こそが、為替の方向に持続的な影響があると見えてきました。考え抜きたいご興味をお持ちの方なら、次の疑問はいったい日米のインフレの違いはミクロ的に何に由来するのかということになるのではないでしょうか。そして為替の見方とはまた別に、それが経済・政策や投資に対して意味するところは何なのでしょうか。そして、2%のインフレが届かない日本に欠けているものは何なのでしょう。

それらは企業行動と産業構造と資本生産性という、長期投資リターンの基礎となる要素と実は関係が深いのです。

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