海外赴任

米国から日本間の海外赴任の際のブローカレジアカウントのソリューション

海外赴任時に考慮すべき事項

いわゆるExpat、駐在員としてなどで長期に日本に海外赴任をする場合、資産管理をどのようにすればいいのでしょうか。またこの逆の場合、日本から米国に海外赴任の場合はどうすればいいのでしょうか。

投資に関することとは離れますが、今までいくつか事例に接してきた経験を参考情報としてシェアしたいと思います。厳密なチェックは国際税務専門家などに確認いただく必要があるのでご留意ください。

さて、結論から言えば米国から日本に海外赴任するときは、日本で口座を開設し米国の口座は閉鎖することが最も無難で諸々の調整を省略し、簡単で楽だということです。

例えば日本での住所に加えて、米国住所を指定すれば米国での金融口座が維持可能だという情報があるようです。しかし仮にそれでは税法上米国の口座をW-8で非居住者預金としていない(米国住所を指定していることで非居住者預金ではないため)ので、米国の口座は米国居住者として扱われるため課税上の居住者判定(ここでは日本に移住したとして日本の居住者であることを前提にしています)と矛盾を生じます。

移住時点前後を含む年の一時的二か国居住のステータスを除いては、複数の国を常に旅をして定住地を持たない等の特殊な場合を除いて、どちらかの国に居住していることが通常でしょう。

従って金融口座は、日本の住所を使って日本の居住者である外国人が開設する金融口座をお持ちになることが、最も整合的でわかりやすい解決方法に他ならないわけです。

この場合この金融口座は米国での非居住者の金融口座となります。事実米国の大手金融機関では、ほとんどの場合現在お持ちの米国内口座の解約を指示されるのではないでしょうか。

ちなみに海外在住の米国人と米国永住者(いわゆるグリーンカードホルダー)の海外金融口座に対しIRSは過去数年より厳正な管理を求めています。具体的にはIRS Revenue Procedures 2014-39によりQualified Intermediaryである海外金融機関は報告義務などをIRSに負っています。これは金融機関におけるアカウントの事務処理を煩雑にしコストも高まります。このため日本の金融機関で米国のTax処理のプロセスがない場合、日本在住の米国人や米国永住者が行う日本国外の証券取引を制限してされています。コンプライアンスのための事務負担を回避するためです。

さらにさまざまな税務や国際資金移動ルールのコンプライアンスは、あたらしく追加され徐々に厳正化されている傾向にあります。テロ犯罪資金フローがグローバル化することで資金洗浄などを行っていることが、一つの大きな背景にあります。

この場合の課税関係を日本の税法で見る場合にもう一つ重要なのは、日本から見た場合の永住者と非永住者の区分です。日本の非永住者の定義は、居住者のうち日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人となっています。

日本の所得税法上、居住者は、日本国内だけでなく国外において得た所得も課税対象とされますが、居住者のうち非永住者に該当する者については、日本での課税が行われるのは、 国外源泉所得以外の所得と国外源泉所得で国内において支払われ、又は国外から送金されたものの二つになります。つまり非永住者(過去10年で5年以内の在住)であれば、送金されていない国外での所得は日本で申告の必要がなく、これは具体的には所得税法第95条第4項で定めがありますが、国外にある資産の運用又は保有により生ずる所得がその一つとして含まれています。

Expatとしておそらく5年以内程度の任期であるとした場合、以上から1)日本国内住所で日本の居住者として口座を開設することで居住性を一致させて、2)その口座は国外で国外の資産の運用に特化したうえで、3)非永住者のステータスであることで国外にある資産運用の所得等の日本での所得税の申告の必要がない、という条件に該当する口座を設定することが最も合理的であると考えられます。

以上は大まかな枠組みとしてであり、実際には、個々に日米の国際税務に詳しい税理士に相談し確認されることが不可欠だと思います。

いずれにせよ、考えるべきは様々なルールにうまく合致して問題がない状態へと最初から金融口座を設定することです。その結果が極力シンプルで扱いやすい形であって、後々の面倒やその処理の手間を最初に回避することが、最も合理的な選択肢だとお分かりいただけると思います。

日本で開設する投資管理口座

次に、ではどうすれば移管が最も継ぎ目なく行え、今までと同様の資産管理環境を整えられるプラットフォームをセットアップするにはどうすればよいか、という点に移ります。

ここでの課題はまず望ましい資産管理環境には何が必要かということになります。例えば

口座環境の適合性

日本国外で取引が行われ、原則日本へ送金はされないこと

米ドルがベースカレンシーであること

多様なドル建ての証券への投資自由度と低コストでの取引執行・管理

インターフェイス(口座のポータルやチャット/電話でのサポート)の英語での標準サポートとクオリティ

日米双方での拠点とサポート

オンラインブローカーとしての米国での高い評価と信頼

これらの条件に合致する証券会社はInteractive BrokersIB)であると考えています。

便利なIB LLC口座

その理由はIBで開設できるIB LLC口座です。この口座は日本のIBを介して米国IBで開設されるため、口座適合性の最初の条件にまさに合致しています。米国人または米国永住権者で日本の税法上の居住者にとって使い勝手が非常によく、米国での口座と同じ自由度や英語での標準のサポート、そして日米双方で拠点があります。日本での外国籍の日本居住個人または各国籍法人名義での口座が開設可能です。またIBは非常に定評が高く、金融のプロによる評価として歴史のあるBarronsで数年連続して米国で最も高い評価をオンライン証券として得ています。

ここで特筆すべきは、このIB LLC口座は米国での証券会社・カストディアンに保管されている証券はそのまま手数料無しで移管可能だということです。(もちろん双方向の取引も可能ですので、米国に帰国した際に米国居住者としてのアカウントに同じように移管ができます。)これによって日米間での口座の移行に伴う証券の売却、為替取引やドル資金の国際送金が必要なくなります。この恩恵は非常に大きく、注意を要する複雑な資金移動プロセスを一元的になくすことができます。

具体的に、ポジション移管ですが米国の証券会社のアカウントからはACATSAutomated Customer Account Transfer Service)を利用して行うことができます。ACATSは顧客のアカウントを別の証券会社へと移行するシステムで、ほとんどの資産、例えば現金・株式・債券、また上場オプションに至るまで簡単にACATSを通じて移行することが可能です。手続自体はとても簡単で、証券の売買は伴わず、各証券の過去の履歴も受け継がれます。期間は一週間程度で終了しその間は基本的には売買はできません。投資信託は米国の非居住者による保有が許されていないため、日本居住者向けの米国IBLLC口座には移行することができませんが、これらは代替的商品にリプリケートする手法があり、IBでそのツールが提供されています。ACATSによる移管前に資金決済まで余裕をもって売却をして他のETFなどの移管可能な証券に入れ替えておくとよいでしょう。もし移管ができない証券があれば、事前にその連絡が入りますので売却する必要が生じます。これらが完了すれば、移管前の米国でとほぼ同様の資産管理環境を整えられるプラットフォームをセットアップが完了します。

またIRA等の個人退職年金口座ですが、税法上の米国居住者に対しての非課税口座であって、国外の日本―または欧州や中国―での税法上居住者に認められる制度ではありません。逆に見た場合、例えば米国外で各国独自の非課税個人年金口座がありますが、非米国人が税法上の米国居住者となったとき、この海外非課税年金口座をどこかの米国内金融機関で非課税として移管継続できるでしょうか。将来日米間などで年金に関する条約が締結され国境を越えた移動を許す制度ができればと思います。ただ、このように厳密にはグレーなのですが、米国内での郵便が届く住所があればそれを届け出先としてIRAを解約はせずに受け入れる金融機関もあるようです(一部はその場合源泉徴収を行うケースもあるようです)。この時、税法上居住国での退職年金での所得の申告については、国際税法のプロの相談を現地でうける必要がおそらくあるでしょう。

セットアップ

さて、アカウント含めてセットアップができれば、ツールや環境を最低限使えるよう一通り習得する必要があります。ユーザーサポートデスクやオンラインでのビデオや資料を活用するだけでなく、テスト用のアカウントを設定して最初に起こりうるシステム入力の間違いが起きても実際には問題とならずに試すこともできます。

移行が済んだ口座では、米国での口座での今までの資産が引き継がれて、日常の円資金を別の銀行などで管理することになります。入出金は米国預金口座と同じで日本の預金口座からはWireによります。IBでは為替取引も非常に良い市場レートと手数料で取引が可能ですので、一般の銀行にある米ドル資金の銀行口座からこの口座にACHで米ドルを振り込み円に両替し、それを日本の銀行口座(銀行によってリフティングチャージが違いますので事前に確認が必要でしょう)に送金すれば銀行間でドル円への為替とWireトランスファーを行うよりも良い条件での取引が可能です。まとまった金額の場合には特に効率が良くなります。

ここまで進んでくればもうアカウントのセットアップなどは完了したといってよいでしょう。さて次にこれからどう管理を行っていくか、というステップに移ります。

 

ポートフォリオ運用のセットアップ

米国でアドバイザーなどの投資サービスを投資口座や401Kなどで利用されていた方も少なくないと思いますが、日本の居住者となると日本でライセンスを受けたアドバイザーしか投資助言や一任運用はできません。米国とは異なり、投資アドバイザー自体が一般的にサービスとして普及しておらず、また数、質、幅すべて下回っています。加えて日本語以外でのインターフェイスによるコミュニケーションでサービスを提供できる日本で公認アドバイザーを見つけることは極めて限られていて更に難しい、という状況が日本の現状ではないかと思います。

したがって、ご自身での管理は最善な方法ではありませんが、やむを得ない場合も多いのではないでしょうか。そこで、次善の対処策を一般的に取り進めるときのヒントを順を追ってご紹介できればと思います。


 アセットアロケーション

基本的に投資ポートフォリオは資産構成であるアロケーションとそれぞれのアセットクラスの中での個別の証券の選択から成り立っています。

アロケーションは、資産のタイプ、通貨、国や地域、産業、格付け、など共通した要素による分類で行われます。それらが資産ごとの特性に影響が大きいからです。まず資産タイプによる配分比率は必須で、その他は大きければ影響はあるものの、そのあとに検討するものでしょう。ここでは米ドルを投資家側にとってのベース通貨と仮定して進めます。

資産配分こそがリターンに重大な影響があるという説は90年代には支配的でした。これに対しては批判もあり現在では、資産配分と資産内での証券選択は同等に重要だという意見がコンセンサスのようです。資産内での証券選択の固有性が相対比で大きいほど資産配分の重要性は減るという点、また資産クラス自体のが市場規模が小さいときには流動性で割高さが大きく影響を受けるので過去のリターンは予測として当てにならない点、の二つを留意すべきですが、いずれにせよ資産配分のプランを持たずにポートフォリオはできません。

では何かそのよい参考はないのかということですが、公表されており、だれでも参考として注目に値するのは、大手の年金基金の資産配分方針でしょう。資産配分についての研究や検討を自らの資産を実際に運用していて大きな責任のある投資家側の立場から詳細かつ組織的かつ慎重に検討して行なわれています。他の投資情報サービス提供者やましてやロボアドバイザーのような参入障壁が低くお手軽な安価だがサービス内容に比べると割高なものとは根本的に違います。そして、一般投資家の立場にも一番近い。

具体的には、ドルベースの公的年金でアセットアロケーションの情報など豊富なのがCalpersで、Calstersは基本的にほぼ同様の配分方針です。またNew York State Commonはそれに次ぐ規模です。Calpersでは議事録や会議の内容に至るまで、書類並びにYouTubeででも公開されており、極めて詳細な情報がわかります。これらの年金の配分とその決定の考え方は大変参考になる情報として参考になります。ただ、留意すべきなのはBaby BoomerRetireに伴って拠出よりも受給者への支払がふえる時期に差し掛かりつつあることで、確定金利や流動性の高い投資への比率がこのような環境要因で高くなっていることでしょう。

例えばこれを書いている時点でのCalpersのアロケーションは

Global Equity 50%

Private Equity 7%

Fixed Income 23%

Real Estate 10%

Alternative 1%

Inflation Linked Security 5%

Cash 4%

となっています。これらの資産クラスの中には公開されていない資産もありますが、それらはいくつかの上場ETFによって代替する方法などがあるでしょう。

しかし大規模な年金になるほど良い投資を選択することが、規模が大きすぎてできないジレンマがあります。そのために資産配分が重要度を増すのですが、そうではない規模のはるかに限られた資産であれば、もっと資産選択にフォーカスをすることがやりやすくなります。先ほど述べたように資産配分の重要度は、リターン貢献に対して全体のおおよそ半分程度といってよいが、資産選択以外の要素によってそれは相当変わります。よってあまり固定的にではなく、緩い基準として資産配分を考慮することをお勧めします。例えば、頻繁にそれを厳密に調整して守っても、売買回転率と手数料が増える一方、実際に得られる追加的リターンは少ないどころか、かえって回転率を上げることでリターンが下がったり、またトレーディング指向に傾いてしまいがちで、よいメリットが少ないからです。

長期の資産配分ではなく、機動的に配分を変えて追加的収益を上げる方法をとる場合、資産間の評価が確実にできて、また資産全体の価格を動かすタイミングを左右するニュースを予想するという、二つが必要。しかし、ともに確実かつ持続的に安定してできるものではない。資産間の割高割安はおよその精度でしかわからず、割高割安が修正されるプロセスは更に予想ができません。従ってこれを実地に展開すると不確実性の大きい戦略で判断が不安定になりやすくなります。ただ個別証券の分析まで行う労力とリソースがない運用者には、このような戦略をとっているケースも少なくありません。


アセットクラス内での投資選択

次にそれぞれの資産クラスで投資する証券を選ぶ必要があります。ここで仮定として個別証券は選ばないという条件で話を進めたいと思います。ここでお話しするのは次善の対処策を一般的に取り進めるときのヒントをご紹介することだからです。個別証券の分析と投資は個々人の方のリスク許容度や時間、またご自身の心理的また技術的要素に大きく左右されるからもあります。詳しくは、私どもや投資専門家にご相談いただくのが適切ではないかと思います。この辺りは再度後述しております。

さて、この場合、選択肢はファンド、つまり特定の証券をポートフォリオとして構成したMutual Fundまたは日本では個々に独自の手法で運用する投資信託、もしくはETFといわれるポートフォリオをある選んだルールに沿って運用し毎日公開し普通株と同様に市場で取引できるファンドがその候補となるのは、よく知られていると思います。

米国でそうであるように、どの国の税法上の居住者であるかによって購入できるファンドには制約があります。これはファンドの開示義務、税金の問題並びに国際資本取引の問題などに対して非居住者を前提にした仕組みが用意されていないことによります。

米国で上場しているMutual Fundは顧客には販売できません。また特殊な仕組み商品なども同様です。代わりに選択できるのは日本で販売される投資信託とETF、並びに日本から海外投資で投資できるETF、主に米国上場ETFが投資できる候補となります。

 

日本国内の日本籍投資信託

まず日本の投資信託事情ですが、米国の代表的な国内株式のアクティブ運用がされているMutual Fundと比較すると下記の違いに気が付きます。

  • 特定分野にフォーカスしたテーマを持ち、マーケティング色が濃いものが目立つ
  • 分配金を払うインカム指向のファンドが多く、預金代替を強く意識
  • 売買回転率が高く投資期間は短い
  • 販売手数料が無料のものは少ない
  • 海外資産は海外のサブアドバイザーに委託し、日本での運用会社は仲介と販売担当
  • 運用の詳細の報告と開示が非常に限定的
  • 不動産REITが非常に人気ありシェアも高い

これらの背景には、日本国内の過剰な普通預金が長い年月ずっと続いていることに示されているような、企業財務や金融への一般の理解水準の低迷があるでしょう。長期的に保有する意義が皆無にもかかわらず、リスク資産への投資はすべて投機で倫理的に良いものではないという固定観念が強いため、一部の投機的個人の選好に合わせた短期テーマ運用投信か、預金のような外見に仕立てた預金代替としての投信か、という極端な構造です。そのため肝心の普通かる真ん中の軸にあたる部分の領域への需要がないということです。

また証券会社は販売手数料と市場シェアにより収益を上げてきたために、一般への金融への知識を上げるよりも投機的取引を推奨してきたために、投資側にとって優れた専門家を生む分厚い仕組みがありませんでした。この結果、リスク資産への投資のアドバイザリーとは上手な投機ができる急騰銘柄の預言者という歪んだ通念が広まっていています。果たしてどこまで職業倫理的に正しいのかは、定かではありません。あた、これに感づいているリスク回避的な日本の人々を預金にとどめさせていています。

 

地域ごとに分割する

これらを踏まえたうえで、それでは日本国内の日本籍投資信託からをどう選んでいけばいいのでしょうか。

まず最初に簡単なベース通貨ごとのルールを適用することをお勧めしたいと思います。これは日本円ベースの株式、債券、その他の資産は日本籍の投資信託またはETFによる投資を行うという考え方です。そして米ドルベースは米国籍のETFを利用する。

この理由ですが、海外、ドルベースなどの資産は、日本籍の投資信託の場合、円ベースで資金フローがあり投資し運用されるために、投資対象であるドル資産の売買で為替取引が発生し非効率性や無駄があります。もともとドルをベース通貨にしている投資家であるなら、円ベースへの変換を中間に挟むことでコストが余分にかかります。

また、国際資産運用を目的にする日本籍投資信託の一覧を規模の大きいものから見ても、前述したような日本固有の偏りが強く、また種類が限定的です。日本で資産規模が最大の国際株式ファンドはある欧州系ファンド会社による世界公益企業株ファンドで分配金が定期的にあって利回りが高い。公益企業株ファンドがこれほど巨大であることだけで、十分日本の投資信託業界の特異性がわかると思います。また欧米サブアドバイザーによる投資信託もいずれも売買回転率が高い短期指向でマーケティング的に取り組みやすいファンドで、販売手数料が高い。選べる投資信託の数、スタイルや種類も日本でははるかに少ない。報告や規制対応でローカライズするためのコストなどが追加的にかかっています。

つまり海外の投資商品を選ぶなら、日本籍の投資サービス商品ではなく、海外籍(ここでは米国籍と考えて話を進めます)の投資サービス商品をユニバースにすることで、選択肢を狭い領域に制限されることなく、得られるメリットがはるかに大きいわけです。

 

日本市場のための投資口座

さて日本市場に投資するときは、米国で開設するIB LLC口座では投資ができません。この場合は別の口座を開設する必要がありますが、日本国内のどの証券会社もこの場合ツールやレポートなどはすべて日本語になります。また口座開設の申し込みの際には、国内居住の日本人を前提にした制度や選択肢があり、複雑に見えると思います。

国内の永住居住者を想定した制度は、日本を離れるときにはポータビリティはありません。またその際には居住性が変わり、非居住者の所有する口座となるために、日本の証券口座は解約することになります。

以上から滞在期間である数年程度の期間に限った時限性のある口座と割り切った考えが適切で、ならば様々な工夫をするよりシンプルに一般口座として、円ベースの収入の一部をある程度のリターンで運用して円ベースの将来の支出に対応させる期限付き口座と考えるのが適切ではないかと思います。

これを踏まえれば、1)長期というより中期の投資でより安全性を重視すること、2)機会損失を生む円預金や確定金利債券を避けること、そして3)円ベース資産の額自体は抑えて、ドルベースの長期投資できるLLC口座にシフトしておくことが重要であろうと思います。

また、もしも英語のインターフェースでの投資管理を望まれる場合には選択肢は多くなく、ご紹介したIBの国内口座のツールであるTrader Workstationは英語のインターフェイスですが、国内証券会社では英語のオプションは用意されていませんし、オフラインのオフィスでも日本語以外での対応は投資サービスについては行われていません。

 

日本株投資信託を選ぶ

一方、日本株投資信託には良い投資信託を見つけることは世界株式よりは難しくありません。ただ一般に定評が良くてもこれらの多くは非常に回転率の高いファンドです。

これは、付加価値の実際の源泉がトレーディング能力であることにほかならず、状況が変わると結果が急に変わってしまうことがあり得ます。結局タイミングをとるゲームでは持続性は難しい、とくに大きな流れが変わるときにはそうだからです。

最も問題なのは、こういったファンドは資金が流失し閉鎖され過去のデータからも消去され残らないので、その問題が後日検証されにくいのです。

ただ、本当はこういった閉鎖されたファンドの戦略をそのまま続けていれば、その後時間をかければ大きく復活したという検証も見たことがあります。しかし一時的であれ急落で半値以下どころかさらにその半値など事前に約束したリスクを大幅に上回って落ちれば、一任してお客様の資金を運用するビジネスとして約束したサービスの内容を満たさないので、解約となるのにはもっともの理由があります。

またこういった背景にもかかわらず、ファンド評価会社は簡便法である数値基準でのランキングをもとに評価をするために、実態としての質の良し悪しを咀嚼してよりよく反映していないように見えます。

また日本籍の投資信託の報告は欧米水準で見れば著しく簡単で詳細が欠けています。またそれは日本語でしか行われていないという問題があります。

ただ、サブアドバイザーを使う海外投資の日本籍投資信託よりは、運用、管理と報告が一か所で一体的に行われるため日本株の日本籍の投資信託のオペレーションの効率は構造的に高くなり、これに関連する見えない中間コストも少ない傾向にはあるといってよいと思います。

そして選択肢は多く競争もあることで、確かに切磋琢磨は進んできました。これらのプラス要素を考えれば、注意深く選んで(売買回転率が指標になると思います)日本株投資信託に投資することには一定の理があるといってよいと思います。

 

どの日本籍の日本株投資信託を選ぶのか

さて、次にどのファンドを選ぶのかということですが、その際に注目すべきポイントは

  • 投資プロセスの注意深い設計、特に投資ユニバースから絞り込む過程
  • 投資プロセスと投資執行との整合性
  • スタイルと投資期間に沿った売買回転率と投資証券選択の履歴
  • 実際のリターンが投資プロセスと一致した分野や要因から得られていること
  • 販売仲介担当ではなく、実際の投資チームによる活発なコミュニケーション
  • 販売手数料や売却手数料などのファンド費用の引き下げで投資家への還元を最大化する努力と姿勢

だと考えられます。リスクリターンの数値指標でファンドを評価する向きが多い(Sharpe Ratioなど)ですが、回転数が上がるほどこの数値の有用性は下がります。なぜなら回転数の高い短期売買を成功させるためには、その時々の市場動向で機能する要素を選んで適応していることが必要で、環境変化でそれが変化すると、投資プロセスが急に不安定化するからです。つまり投資意思決定プロセスや銘柄評価の考え方がその時々で変わってしまう可能性があるので、回転率が高いファンドは過去の数値指標が将来のパフォーマンスの予測に役立たない可能性が高くなるのです。

しかもこの回転率はプロのマネジャーの本当の特徴とスタイルを最も間違いようなく表す指標です。作り手の側に立って、リスクは簡単に加工できますし、それ次第でSharpe Ratioもマネジャーの本来のスタイルとは別に加工ができます。しかし回転率だけは、本質的なスタイルがそろわなければ、そう容易には変えることができないものです。


米国上場ETF

さて、米ドルベースのポートフォリオの軸となる、米国の上場ETFに目を向けましょう。ETFは急速に拡大し、多様性、コストの低さや透明性が拡大を牽引してきました。主たるETFプロバイダーの市場シェアを見ると、Vanguardが成長著しく、BlackRockiSharesはシェアでは最大ではあるものの以前ほどの高い地位ではなくなっています。一方SPDRState Streetは緩やかに後退しています。

ここでお話をしてきた内容に沿ったETFの選択に当たって留意すべき要素は

  • 広い市場の証券をカバーし特定の偏りがないプレーンなETFであること
  • 投機的なレバレッジやオプションなどが組み込まれていないこと

また一般論としてのETFの選択の留意事項として

  • 資産規模が大きく流動性があり、スプレッドが小さいこと
  • トラッキングエラーが小さいこと
  • 経費率が低いこと

を満たすものであれば候補に挙がると思います。ETFのデータベースと検索ツールは大手3社のオンライン検索またはその他のETF関連の大手サイトなどで提供されています。トラッキングエラーを抑える方法としてファンドではよくETF保有株を貸株に使いフィーによりリターンを補完しています。規模が大きいファンドが有利ですが、Vanguardが躍進したのも低い経費率に加えて、トラッキングエラーが小さいファンドをより多く有したのも一つの要因です。

念のためですが、ETFの種類が多いためにその中から良いETFを選びたくなる心理が当然働くと思いますが、ここまで進んでくる中で資産配分の枠組もすでにできているはずだと思います。ETFを分野やスタイルや手法で偏りがあるもの(地域、成長割安、大型と小型株、産業)を選ぶと、プレーンな資産を前提に決めた資産配分が揺らいでしまいます。特徴のあるETFを選ぶのであれば、その分類を作って、新しい資産配分比率を計画するようなものです。つまり今までのプロセスをリセットしています。それには確たる新たな根拠があればよいですが、それがないならあくまで知識としてとどめ、実際の応用には慎重になるべきです。可能な選択肢であっても、プロセス的に確実な選択肢ではありません。まず信頼できる投資アドバイスのプロに相談するのが良いでしょう。

ETFをツールとして使うことをご紹介しましたが、米国での自分のポートフォリオと同じように投資信託を組み入れてアクティブに投資がしたい。何か方法がないのかというご要望もあると思います。まず日本の居住者では米国のMutual Fundは購入できません。原理的に近似にしか過ぎないことを留意していただきたいのですが、Interactive Brokersではユーザーが特定の米国上場投資信託を指定すると、それを複数のETFで代替して複製するツールを無料でアカウント保有者に提供しています。ある程度の誤差はありますが、プレーンなETF以外のファンドを発見し検討する際に一つのヒントになる方法です。

 

個別銘柄に投資する

最後に個別銘柄に投資することについてですが、まず個別投資が難しい資産について。個別投資が難しい理由は主に、取引単位が分散投資を行うには大きすぎて、資産クラスをバランスよくカバーできないことと、流動性がなく公開市場での円滑な売買取引が困難なことにあります。

これらへの対処ですがETFで十分カバーできるものが多く、それらを最大限利用すればよいと思います。個々の銘柄ごとに固有のリターンはむろんありますし、ETFには同じ流動性などの問題が内包されていて原資産とのスプレッドが生じえてしまいますが、しかし、現実的で十分に合理的な範囲であって、これを利用しない理由にまではならないし、得られるプラス効果がマイナスを相殺して資産分散とポートフォリオ構築に、それ以上に大きいプラス効果があるからです。具体的には確定利付債券やモーゲージ証券、不動産、またAlternative資産(コモディティや実物やヘッジファンドなど)です。ETFの選択の時に気を付けるべき資産規模、スプレッドやトラッキングエラーや経費率にはむろん注意が必要です。

そして株式は個別投資が最も容易です。IBUS LLCであれば米国上場のすべてに加えてADR(追加のコストがADRにはありますが)や欧州やアジア市場にもアクセスできるので、内外資本移動や為替管理があるエマージング市場以外でには投資でき、ユニバースは極めて大きい。為替も簡単に売買ができます。

しかし個別株への投資は、十分に経験と冷静な精神状態がない限りはお勧めしません。基本的には優れたプロのアドバイザーと一緒に検討されるべきです。

個別株投資の難しさとアドバイザー

この理由はいくつかありますが、一つには投資という技能の習熟曲線の特殊性です。それは経済、企業財務や事業戦略、証券市場の知識や基本的投資理論、ポートフォリオ理論などの誰もが持たないといけない共通の知識取得にかかわる習熟曲線とは別に、投資を行い成功させるための鍵である、もう一つ別の習熟曲線があり、そこで初めて固有のスタイルや手法が特異的に成長するからです。そして一般にある程度の知識を最初の習熟曲線で持てば、外部から得た情報だけでよく理解した意思決定ができているという確かさを感じてしまうのです。

数か月後に市場が株価をどう評価するかを予想するという慣習は過去から根強く、それは企業の将来の予測は困難で、正確な証券の価値評価は科学のようにはできないという難しさによるものです。調査し適正価値を考え意思決定することは困難なので、それはせずに、市場がどう評価するかに影響を与える情報に注意を払って素早く行動するというわけです。

明らかに今の市場を見ても後者のアプローチが株価に圧倒的に影響が大きく、大変多くの参加者がこの方法に沿って、短期の投資期間かつ高い回転率の投資を行っています。そしてこの手法であれば最初の習熟曲線とタイムリーで早い情報収集で十分です。プロではない一般のほとんどの方の習熟度はこの最初の習熟曲線のどこかに位置していると思います。

しかしこの場所はすでに多くの同じトレーディング的手法をとるプロの参加者で混雑した渋滞で、情報取集は行き過ぎて、インサイダー情報での有罪になる事件も起こりました。規制側、特に米国では厳しくディスクロージャーのルールが規定されています。何も大きな優位性がない一般の方が同じアプローチでしかもプロよりはるかに限られた情報と時間では、グループ平均並みの結果ですら安定して得ることは極めて難しいでしょう。

研鑽を積んでその先の習熟曲線の勾配を上るには、ビッグデータの解析でニューラルネットワークのトレーニングを成功させるときのカギのようにデータセットをできるだけ大きくする、つまり投資調査と実際のポートフォリオ運用での投資の成功と失敗の経験をできるだけ多く重ねることが欠かせません。実地での経験のあるアドバイザーが、それを補完して提供するコンサルテーションを行うことで、クライアントや一般の方がその次の勾配を見渡すために一緒に手助けをしてくれます。

また割安株や低ボラティリティなど、投資戦略の中でもわかりやすいものは紹介されており、それを応用しようという方もおられると思います。ただ、これらを理解することと実際に執行することにはギャップがあります。これらを進めるときには、先ほど述べた誰もが行っている市場による評価を予想して動くアプローチとは明確に距離を置いて、かつ安定して続けるには冷静さと慎重さが必要です。が、これも一定の経験がないと実行は容易ではありません。一般の方が一人では、短期的な結果で心がすぐに揺らいでしまうものです。メディアは問題がない良いニュースよりも悪いニュースや心配により注目を集めます。そしてSNSは梃子となってそれを広く拡散します。それらを入手するためにアプリがあり、また無料で市場情報のツールがスマートデバイス上で利用ができます。これでは不安になる情報を聞かないでいる人間は皆無でしょう。平静さを維持することはどうしても難しいわけです。また、証券会社のリサーチ推奨は集まればただの市場平均値にしか過ぎませんし、プロであればほぼすべてにアクセスしていて、アイディアや財務予想のたたき台としては利用していますが、特段それ自身による優位性はないものです。

最後に

さて、ここまででほぼ必要なことはカバーしたと思います。いかに多くの手間がかかることがあるのかと思われると思います。本来であればこういう時に投資アドバイザーがお役に立つのですが、申し上げましたように日本では投資アドバイザーの層が薄く、またここで述べたような特殊な事例に関しての経験があるアドバイザーは極めて少ないと思います。

税法や様々な条件は、時と主に変化をしますので、ここで述べた内容は必ずしも正確であることを保証はしかねますので、これらはあくまでも参考としてご利用いただいて、税務アドバイザーに個別の状況や最新の税法等の観点からのご相談をいただくことが近道ではないかと思います。

 

いずれにせよ

 

 

 

ここまで日米の国境を越して中長期の派遣勤務などで日本に移住するときに対応すべきファイナンスの問題について具体的なソリューションの一つをご紹介いたしました。よく生活には人モノ金という三つがそろわないと困るといいますが、人についての仕事・教育・医療・住居と引っ越しというモノに関しては移住の際に真っ先に対応されているものの、金というファイナンスについては継ぎ目なく日米で移行することに十分なケアがされているようには思えません。その理由の一つには日米での金融行政環境の変化もあるでしょうし、二か国での金融サービス市場そのものの違いも大きな理由です。従って現在のベストプラクティスは最善のソリューションという位置づけで考えるべきだと考えています。

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