前四半期の市場環境

前四半期の市場の環境

10/8/2021

アップデートされたテーブルは下記の通りですが、特筆すべきこととしては

  • 全世界株式は1%程度の下落
  • セクタ―としては金融とエネルギーが堅調で、コスト増や金利上昇懸念などでそれ以外のセクターは総じて低調
  • エマージング市場での差が大きく中国ブラジルが低調に対し、ロシアインドが好調に推移
  • コモディティ市場が上昇、インフレリンク債と変動金利ローンが上回り、それ以外は低調に推移

と市場全体の形では、金利、インフレ、個別国での政策とコロナ影響の周期タイミング、が直近の四半期での市場リターンにつながりました。

 

前四半期の市場環境

 

ここで特徴的な金融とエネルギーについて株価の動きを左右した要素から考察してみます。

まずこの株価のリターンをどう要因を説明するかです。下記に示しているのは、この二つのセクターの株価純資産倍率という、典型的な株価のバリュエーションを示す指標で株価を一株当たりの資本で割った数値です。この二つのセクターはフローよりも資産(金融資産または採掘製造資産)に依存する事業でありそのためにこの株価指標が最適な指標と考えられています。

 

S&P500 エネルギーセクター

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S&P500 金融セクター

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これらから、この二つのセクターいずれもコロナで一時期打撃を受けた底から回復、それによって低株価からの上昇が大きくリターンに寄与したということが見えてくると思います。エネルギーセクターで言えばそれが1.0を下回る水準まで下落し元の1.8まで回復したという株価評価の戻りが主たる要因だということです。

低株価からの復帰がほぼ達成された現時点でからの展望はどう考えるべきでしょうか。

これからの株価上昇の要因は次へと渡ります。それは具体的にはROEの上昇による自己資本成長であり、それがトレンド的上昇軌道に入るのかがカギになります。

指標的には純資産である一株当たり資本の成長速度が株価を牽引することになります。過去の1株当たり資本のトレンドと予想を見てみましょう。

 

S&P500 エネルギーセクター

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S&P500 金融セクター

financials bps growth

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エネルギーは現在の状況から一ケタ台後半の伸びが今後予想されていますが、ご覧の通り2004年をピークにして15年以上も下降トレンドを続けてきました。そして非常に変動の大きな産業であるために、予想の確かさも常に劣ります。

このようなコモディティ事業という特性による背景で、見通しによって先の行方は幅を持ってしか予測はできないが、一ケタ台真ん中から後半程度が楽観的な前提でのリターンのめどと考えます。

当面は需給の一時的ギャップが恩恵として働きますが、長期的に化石燃料市場が拡大するという到達可能市場規模、TAMの上昇はどう考えてもあり得ない未来です。

業界として転換の先にしか持続可能な成長は存在していません。しかしそれに至る道の見通しは悪く、さらに長期的な見通しは困難です。

そのために短期的な動きでの裁定取引のトレードの対象にはなりえても、5年先に見える5年後の様子を視野に入れての投資の観点では評価するロジックを構成することは非常に難しいのではないでしょうか。

金融については一ケタ台の真ん中の伸びが予想されています。過去平均より若干良い程度でしょう。二ケタは困難でしょうが、エネルギーに比べれば悪化トレンドという記録は今時点では見当たりません。

しかし、既存の金融業の成長は低位安定している一方で、近年のFintechの成長は極めて高く、様々な新しいサービスが広がりを見せています。この結果、本来であれば取り込めるはずであった需要なりユーザーを既存の金融業はうまく獲得していないのではないでしょうか。

それが意味しているのは、一見したところ安定しているようでも、実際は機会損失を被っており、見えない部分で競争力が減退しているのではないかとことです。現実には、すぐに解約をしない傾向にある既存顧客から収益を最大化する手数料などで、低位安定を維持することを選択しているようにも見えます。

インフラ技術の観点で見ても、延命も困難になってきた開発者が減少一途のCOBOLなどレガシーで成り立つメインフレームがコアシステムを依然として成り立たせていますが、もはや時間の問題。使いやすい利便性と低価格と簡単さから攻め込む新しいインフラとアプリのプラットフォームを活用するFintechの参入者に徐々に浸食されてしまうのではないかと思います。

以上で見たように、これらのセクターはこれからに関しては次のドライバーが牽引する時期で、そして投資家側にベネフィットをもたらすにはいずれも過去の呪縛を断ち切る転換が必要でしょう。しかし新しい風をもたらす参入者や事業機会が拡大しつつあり、むしろ守りながら低位安定を選択する経営に向かうのではないかと思います。

 

さて、経済全体の様子について話を切り替えます。

米連邦準備制度理事会(FRB)は資産購入のペースを縮小する変曲点に近づいているようです。このような動きは、実際には年内に始まるかもしれません。しかし、利上げは2022年後半以降になると予想されます。このような利上げへの調整期間の延長は、ウォールストリートでは歓迎され、FOMCの後一時的に圧力のかかっていた株式市場は勢いよく上昇しました。しかし、その後エネルギー価格上昇による経済活動への懸念が広がり、テクノロジー関連を中心に大手企業株価は下落しました。

このようなFRBの動きの背景には、緩やかな、しかし昨年比では大きく改善をしている経済成長とインフレ率の上昇があります。GDP6%以上増加した今年前半は非常に堅調で、第3四半期もおおむね順調に推移し前年の水準は低いことから、成長率は5%程度になった可能性があります。また、生産者および消費者物価の不安定な推移と東南アジアの後工程が止まるなどのCOVID-19による影響を受けての半導体サプライチェーンの稼働低下も、このFRBの姿勢の変化に影響を与えています。

そして第4四半期は、経済は更にやや弱いものになる可能性があり、第3四半期に比べて一歩遅れているかもしれません。第3四半期は、雇用の増加、失業申請、住宅、小売販売などの分野で、すでに良い数値と期待に届かない発表値が徐々に混ざり合い始めています。両四半期ともに前年比で5%後半が予想はされていますが、果たしてそれが達成できるのか疑問が残ります。昨今の金融市場の動向によって消費者信頼感が低下することも懸念されます。

Yearly

前四半期の市場環境

Quarterly

前四半期の市場環境

 

そして問題はまだ残っています。インフレ、COVID-19の症例数の多さ、原油価格と国債利回りの上昇、ワシントンでの膠着状態(インフラ投資予算、債務上限の延長を望む声)に加え、海外では最近の中国の大手不動産開発会社の債務問題が世界の金融市場の敏感な短期的反応を刺激する可能性があります。

それと忘れてはいけないのは、コロナ以前においてのGDPの状況です。米国の過去10年と20年のそれぞれの実質GDPの平均の伸びはそれぞれ1.89%1.85%でした。現在(特に4-6月期はそれが12%を超えるいわば異常事態でそれが一時的ボトルネックを生んでいました。)、この下半期に予想されている5%台の伸びも以前に比べて倍以上の高い伸びです。しかし平均回帰する兆候は雇用数値の下振れなどからも出ています。

US Real GDP YOY 20y

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これらが示唆するのは単純にコロナ以前の2%程度への成長軌道への復帰ではないでしょうか。期待値が5%と高いためにそれを下回れば一部にはスタグフレーションという高インフレとマイナス成長が来るという冷静さにかけた主張まで出かねないと思います。

冷静に見ればただ単に以前の水準に復帰する過程で数値の変動が大きくなっているだけで、過剰な期待のために一喜一憂していては、自分で膨らませすぎた期待にに失望し、軸にあるトレンドを誤解、自らをさらに混乱させているように思えてなりません。

 さて、ここまでの話からすると心配すべき要素だらけで困った状況のように見えると思います。しかし、すでにこれらはほぼ全ての市場関係者が大なり小なり既知な生き渡った情報です。従って市場には織り込まれている情報と分類され、言い換えれば、現在の市場から取り出して、そこに反映されている要素を列挙したに過ぎません。

事実として、むしろ、市場における不安とは熱しすぎやすい楽観を調整する冷却機構の抑制剤で、楽観と共にあることでシステムとして両立させている欠かせない要素です。

もう一方でチャンスは豊富にあります。米国の経済の成長ドライバーである成長産業が今後も高い競争力と革新を現在同様に継続し続けていければ、今後のインフレの穏やかな2-3%程度の上昇をこれらの産業は容易に吸収して伸び続けるでしょう。固有な技術は需要があるから成長しており、それは高い生産性によって価格支配力も有しています。

次世代に向けた情報技術革新は多種多様な幅広い産業での応用や環境エネルギーへも広がり始めたばかりです。COVID-19 IT応用への実践でのトライアル機会を世界中の多くの企業に与えました。デジタル化と個人情報規制がマーケティングを変えたり、ML/AIという技術が自動文書解析のクラウド化を進め、半導体は微細化の壁から新しい方向の技術へ向かい、クラウドとそれ上でのサービスは高度化しリアルタイムでの高速化に向けた進化を続けています。

そして、FRBの主張通りにエネルギー価格を筆頭に対前年のハードルが徐々に高くなる時期に差し掛かります。来年特に4月以降に年率のインフレは落ち着く、したがって短期的な現象であるというFRBの見解が正しいことが証明され、上記の高成長産業が引き続き米国経済のリーダーシップを維持した場合には、大きなチャンスがあるでしょう。

前述のFRBや短期的指標での市場反応のノイズはしばらくあるとしても、今後の軸となる行方は各企業や産業がどのように成長を続けていくのかという論点こそが最重要で同時に長期的な羅針盤として最も有用なものであると考えています。

株価水準について付け加えれば、フリーキャッシュフロー利回りで見た株価水準も現状は10年債金利と比較しても大きく割高ではなく、およそ23年前のCOVID-19 までに戻った状況です。とても安く急に買い進むような状況ではありませんが、少なくとも価格水準を理由に現金へと切り替える理由は見つかりません。

前四半期の市場環境

金融市場のトレーダーは経済の動きの断面図で過剰に反応してしまいます。どれほど情報を持ち合わせた優れた分析者でも、実際の現場では何度も間違い、正解率を下げることはできていませんでした。これをプロの機関投資家の現場で日常観察していれば、経験として得られる最大の成果は、何年かけて何世代の分析者が知恵を出してもあたらない予想しかできないこと、これへの確信しか高まりません。

予想値はおおよその幅を持ってとらえるべきで、大体の方向とその理由だけ理解していること、そして数値よりなぜそれがそうなっているのかという背景にある因果関係について洞察をすることのほうがはるかに重要です。

 

さて、以上考察したうえでの結論は、継続して投資を続けるべきだということです。この2か月弱の米国市場の変動拡大は、長期的な下降スパイラルの始まりではなく、各種指標と経済活動が正常化する中でのいびつな動きによる軋みが生んだ、リフレッシュするための小休止だと考えています。むろんさらなる市場の下落が可能性なしというわけではありません。特に、期待される成長率やインフレ目標からのずれで、市場が予想を当てるゲームに失敗して、様々な妄想で不安を感じる可能性も当然あり得ます。しかし大きな誤差の可能性は低く、さらにそれが続けて連続して軌道を逸してしまう可能性は限りなく低いと考えています。

一方で、現実のビジネスにおいて、現在の成長技術の進展とそれを支える需要である生産性への渇望やそれを成り立たせる要素技術や知見や様々な活動は今のところ、着実に成果を上げて前に進んでいます。

そして連続した初期段階の事業機会が連鎖的に生まれる非常に良い循環は企業の活動、マネジメントの動きなどから肌感覚で強く感じられます。私どもはこのような現実のビジネスに非常に強く立脚するプロセスを重視し、そこからの知見を最優先にしています。

投資を形作るには、時間軸を伸ばした方向に集中し、可能なリソース全てを動員して総合的に考え尽くす努力を惜しまないことを地道に積み重ねないと、何になぜ投資したのかのプロセスが錯綜、判断の質の低下と群衆に左右される方向に引きずられてしまうものです。

 

 

(補足1)

さらにインフレ上昇によって高成長企業の価格評価指標である価格倍率に圧力がかかるという現象が広がっていて、一部の優れた資産運用会社でもそのような簡便化しすぎた見解を広く公表しているのを見ると驚かざるを得ません。

重要なことは株式の価値評価の場合には、将来のキャッシュフローなど現在価値に割り引く対象となる未来の業績数値は固定されていないことです。

固定利付債の評価で使われる金利感応度は平均償還期間を使うDurationという概念で、簡単にいけば平均償還期間が長いほど金利感応度が高く、1年債より30年債は金利感応度が高いことになります。

これが今回の長期キャッシュフローを持つ成長企業の株式評価に置き換えられ、株式Durationとして金利が上がったことで成長企業は影響が大きいという建付けなわけです。しかし、金利上昇はなかんずく足元の経済回復が大きく5%年率を超える速さである結果であり、だとすれば将来の売上も収益も経済活動の活性化で上昇するはずです。

また、業績予想が名目数値である以上、インフレの影響は理屈上売上にも費用にも影響があるはずですが、なぜかアナリストはインフレによる費用への影響を先に織り込んでも、売上は同様に見えない。

例えばインフレでマージンは悪化し、価格転嫁は常に遅れるといった仮定が通常の前提。

企業側も戦略的かつ競合との兼ね合いと顧客との価格交渉の関係上、公に価格引き上げを発表しずらいし、またあったとしてもやや遅行する背景があるのも一因でしょう。

アナリストは実務的に、経営陣から得た内容以上に強い想定を入れ業績予想はしないものです。そして経営陣自身も名目と実質値を分けて考えるなどしていません。とはいえ、現実的にあらゆる事業はインフレの影響下にあります。実際の財務に計上される金額は実質+インフレの名目額でしかありません。

これらの理由から、成長企業の株式を測る時にインフレ下で割り引く対象となる分子を固定する簡便法アプローチは正しくバリュエーションをしているとは思えず同意しかねます。

長期の固定利払債券や価格支配力が公的規制で外部依存してい規制下に置かれた業界などの、インフレをパススルーする能力が無いほど価格に対する縛りがある、もしくは競争力がない劣った事業であれば例外になるとは思います。

ほとんどの優秀な成長事業は既存の競合を上回る生産性などを提供してシェアを伸ばしており、長期でインフレに対する価格コントロール力を放棄しているという仮定は強すぎると考えています。

 

(補足2)

反論として、局地的な投機ゲームで本質価値のない仮想通貨がリスクの根源ではないかという意見をよく聞きます。否定はしませんが、それに対するリスクへの抑え込みは加速化しており、今後を見ても米国でのより厳しい対応が執行されれば、長期的には規制の緩い途上国に取引所はいやおうなく向かい、限界的な投機に限定される可能性が高いとみています。

むつかしい本質価値などと紐付いた投資とは違って、なにも考えずとも買えば上がるという“民主化”された自動錬金術の投機手段であって、したがって大衆人気が出ない理由はない。投機道具として大変便利でユニークな価値はあると思います。

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